待ち侘びていた書籍の発売日に大きな書店に向かった。神様は残酷だった【神野藍】
神野藍 新連載「揺蕩と偏愛」#5
■どこの売り場に「私の本」が置いてあったか?
発売前から何となく気がついてはいた。本を出版するということは、過去の仕事を語ることでもある。過去のWEB連載を読んでいないか、私のことをよく知らない人からすると、この本が「告発本」か「性的な行為を手放しに肯定する本」だとどうしても受け止められてしまう。頭の隅でぼんやりと考えていたことが、どこの売り場に本が置いてあるかという明確な答えで私のところに答えが降ってきた。
「性的なことが書いていないのならば、意味がない」とまで言われたこともある。冗談だと信じたい。でも空気を読んでしまう私は全て笑顔で受け流してしまう。私が書きたいものは、そして身体から流れ出たものはこんな簡単に笑われていいものではないのに。
私は皆が用意した期待通りのシナリオをなぞる人間になりたくなかった。一つのストーリーに押し込めて、私が奥底に追いやってきた感情の欠片をなかったことにしたくなかった。ただ、向き合いたかった。
店頭に並ぶ本を眺めて、ただ満たされた気持ちのままで今日だけは穏やかに眠れると思った。気がついたらまた私は言葉に縛られて、内側から吐き出さないと消えてしまうという切迫した感情に襲われている。書かないと。今日も明日も、その先も。出版したから終わりじゃない。区切りがついただけ。私はまた次の欲しいものに向けて血のインクを滴らせる。いつまでも終わりは来ない、私という存在がいなくなるまでは。
そして、いつか誰かの救いになれる日が来るとしたら。
そんな未来に、私の傷跡が繋がっていてほしいと願う。
文:神野藍
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KEYWORDS:
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✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに